2024.04.24
犬の馬尾症候群について|主に下半身に症状が現れる
体を支える背骨にはトンネル状の管 (脊柱管)があり、その中を脳から続く脊髄神経が通っています。腰から尾の付け根辺りの脊柱管には、非常に細い神経が通っていますが、この神経は脳から続く脊髄神経が枝分かれしたもので、見た目が馬のしっぽの様に見えるため、馬尾神経と呼ばれています。
「馬尾症候群」 (正式には変性性腰仙部狭窄症)とは、この馬尾神経が圧迫されることでさまざまな症状を起こす病態の総称です。
今回は犬の馬尾症候群の原因や症状、診断・治療方法などを詳しく解説します。
■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法とご家庭で注意すること
6.まとめ
原因
馬尾症候群(ばびしょうこうぐん)は主に先天性と後天性の2つのタイプに分けられます。
<先天性>
このタイプは、生まれつきの背骨の奇形が原因で、神経根が圧迫されることにより発症します。症状は比較的若い年齢で発症します。
<後天性>
主にハンセン2型の椎間板ヘルニアが原因であり、それ以外にも靭帯の肥厚や関節包の肥大、骨軟骨症などが馬尾神経を圧迫し、症状を引き起こすことがあります。
馬尾症候群はジャーマン・シェパード、ラブラドール・レトリバーなどの大型犬に多く見られますが、小型犬も加齢により発症することがあり、全ての犬種に発生する可能性があります。
症状
馬尾症候群の症状は椎間板ヘルニアと非常によく似た症状が見られますが、馬尾神経は下半身を制御する神経であるため、主に下半身に症状が現れます。
主な症状は以下の通りです。
・後ろ足の跛行(歩様異常):片足または両足でうまく歩けない状態。
・背中に触るとキャンと叫ぶ:軽く触られただけで激しく反応し、痛みを訴える。
・運動能力の低下:以前は可能だったジャンプや階段の昇降が困難になる。
・歩くことを嫌がる:痛みから歩くことを嫌がる様子が見られる。
・座る動作が遅い:痛みがあるため座る時に躊躇する、もしくは非常にゆっくりとしか座れない。
・しっぽを振れない
これらの症状は全て、腰仙部の痛みに起因しています。馬尾症候群による跛行やその他の神経痛は特に活動後に悪化する傾向があります。
診断方法
最近ではCTやMRI検査などの高度画像診断技術の発達により、馬尾症候群と診断できるケースが増えてきましたが、一般的に馬尾症候群の診断は簡単ではありません。その理由は、馬尾症候群の症状は前十字靭帯断裂や血栓塞栓症、関節炎など他の疾患と非常に類似しているためです。
診断を確実に行うためには、丁寧な神経学的検査が必要で、これによって神経の機能がどの程度影響を受けているかを評価します。
さらに、レントゲン撮影を行い基本的な骨格のチェックを行いますが、詳細な画像が必要な場合は造影レントゲン撮影が選択されます。
CT撮影は骨の異常や狭窄をより詳しく調べるのに役立ち、最終的にはMRI撮影が必要となることが多くあります。
MRIは神経組織や軟部組織の詳細な評価を可能にし、確定診断を下す上で非常に重要です。診断に必要な場合、当院からMRI設備を有する施設へのご紹介も行っています。
治療方法
馬尾症候群の治療には、内科的な保存療法と、より根本的な外科治療があります。
内科治療は、比較的症状が軽い場合や小型犬などに実施することが多く、運動制限(ケージレスト)や抗炎症剤や鎮痛剤によって臨床症状の改善を狙います。
外科治療は、薬物療法で改善が見られない場合や、運動量が多い大型犬に選択されることがあります。
具体的な手術方法としては、第7腰椎から仙骨にかけての背側椎弓切除術があり、これにより神経の圧迫を解除する減圧療法が行われます。
また、椎間孔の狭窄がある場合には、必要に応じて椎間孔拡大術を行います。
これらの術式に、椎体をインプラントで固定し、より安定した状態にするため、関節固定術を併用する場合もあります。
これらの外科手術は高度な技術を要するため、専門的な設備を持つ高度二次診療施設や大学病院で行われます。
予防法とご家庭で注意すること
馬尾症候群は加齢に伴い発症することがあるため、完全に予防することは困難です。しかし、脊髄への負担を軽減するために、激しい運動や高所からのジャンプなどは避けた方が良いでしょう。
馬尾症候群の予後は症状の発生後、適切な治療を受ける期間に大きく左右されるため、早期の発見と治療の開始が何よりも大切です。
まとめ
馬尾症候群は、先天的または後天的な原因により馬尾神経が圧迫され、さまざまな症状が現れる病態の総称です。
神経組織は一度損傷を受けると回復が困難なため、早期の内科的治療や手術による減圧療法で速やかに神経の炎症を和らげることが治療の鍵となります。
もし愛犬の歩行に違和感がある場合は、すぐに獣医師にご相談ください。
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