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神戸三宮元町にあるACSです。

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2023.12.21

犬の前十字靭帯断裂について|5〜6歳以降の発症が多い

犬の前十字靭帯断裂とは、後ろ足の病気の中で最も頻繁に見られる整形外科疾患の一つです。
前十字靭帯は膝の中に存在する靭帯の一つで、膝が過度に伸びるのを防いだり、脛骨というスネの骨が前に滑り出したり内側に回転しないように制御しています。
前十字靭帯が断裂すると膝の関節の安定性が失われてしまい、痛みが生じて足を引きずるような歩き方になります。

 

今回は、犬の前十字靭帯断裂の関節鏡を用いた診断法や、TPLOなどの代表的な手術法などを詳しく解説します。

 



■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ

 

原因


犬の前十字靭帯断裂は、ほとんどが加齢により靭帯の強度が弱ることや、何らかの理由で膝に負荷が与えられ続けることが原因です。そのため、階段を駆け上がるような軽い力が加わっただけでも前十字靭帯が切れてしまうことがよくあります。

 

また、前十字靭帯断裂の原因としてTPA (脛骨高平部水平角:脛骨上面に対する
大腿骨の角度)が生まれつき高いことも原因の一つです(TPAが高いほど前十字靭帯に負荷がかかりやすい)。

TPAが生まれつき大きい犬 (ウェルシュ・コーギー、ゴールデン・レトリーバー、ロットワイラーなど)は日常的に膝への負担がかかり前十字靭帯が切れやすい素因を元々持っており、そこに何らかの負荷がかかることで前十字靭帯が断裂してしまいます。

 

そして、前十字靭帯断裂は全ての犬種で発生する可能性があり、発症年齢は5〜6歳以降の中高齢での発症が多く、肥満や長期的なステロイドの投与も発症のリスクになると言われているため、中高齢以降で肥満気味の犬やステロイドを服用している犬は特に注意が必要です。



症状


前十字靭帯断裂には、靭帯の一部が切れてしまう「部分断裂」と完全に靭帯が断裂してしまう「完全断裂」の二種類があります。

両者に共通する症状としては、断裂時にキャンと鳴く、足を引きずって歩く、足を地面につけたがらない、ケンケンのような歩き方をするなどがあります。

 

なお、軽度の部分断裂では1週間程度で症状が改善することもありますが、飼い主様自身で部分断裂か完全断裂かどうかを判断することは困難であるため、上記の症状が見られたらすぐに動物病院を受診しましょう。

 

 

診断方法


問診や院内で犬の歩き方を観察する歩様検査触診レントゲン検査関節鏡検査などを行い、総合的に診断します。

 

レントゲン検査では前十字靭帯が断裂したことで脛骨が前に滑り出している様子や膝の関節内に関節液が異常に貯留している (ファットパッドサイン)所見が見られます。

 

また、関節鏡検査は実施している病院は非常にまれですが、前十字靭帯断裂の確定診断において非常に効果的です。関節鏡とは硬い内視鏡で、小さく切開した皮膚から関節内部に挿入し、直接的に関節内の状況を評価できます。

この検査方法の大きな特徴は、侵襲性が非常に小さく痛みを最小限に抑えながら、関節内部の靭帯の断裂程度や半月板の損傷、変性具合などの様子を肉眼で観察できるため、非常に正確な診断が可能であることです。

 

当院では関節鏡を検査だけではなく治療にも用いており、関節鏡下で
シェーバーという特殊な機械を用いて断裂した前十字靭帯の除去や
半月板の処理を行うことで、一般の手術よりも侵襲を小さくして治療することが
可能です。

 

 

治療方法


前十字靭帯断裂の治療には内科療法 (=保存療法)と外科療法があります。

内科療法では、1ヶ月程度の自宅での絶対安静と痛み止めや関節用のサプリメントなどを服用します。小型犬の部分断裂では効果が見られることもありますが、運動量の多い中〜大型犬や完全断裂の場合は効果が見られないこともあります。

 

また、外科療法には、最も頻繁に行われるTPLO法(脛骨高平部水平化術)や関節外法、TTA法 (脛骨粗面前進化術)などがあります。

以前は、TPLO法は体重が15kg以上の大型犬にのみ適用されていましたが、医療技術の向上から小型犬でもTPLO法が可能となりました。

 

TPLO法では、脛骨の近位 (上側で大腿骨に接している方)に骨切りを行い、脛骨高平部の角度を水平に矯正します。今までは後ろ側に傾いていた脛骨の上に乗っていた大腿骨が、脛骨の水平化によって尾側に滑り落ちないようになるため、膝の関節が安定化します。

切った骨が癒合するまでの期間(約2〜3ヶ月程度)は激しい運動ができませんが、骨がしっかりと癒合すれば今までのように走ったりジャンプしたりできるようになります

 

また、術後の合併症 (使用したプレートやスクリューの破損や取れてしまう、骨の癒合不全、細菌感染など)は5〜10%程度で発生すると一部の論文で報告されていますが、TPLO法を受けた小型犬から大型犬までの394例を調査した報告では90%以上の飼い主様が手術結果に満足していると回答しており良好な治療結果が期待できると言えます。

 

 

予防法やご家庭での注意点


普段から階段を飛び降りたり、フリスビーをジャンプしてキャッチしたりするような、膝に負担のかかる運動はなるべく避けましょう肥満も前十字靭帯断裂のリスク因子であるため、体重管理も予防には効果的です。

さらに、どちらかの足の前十字靭帯断裂を起こしたことのある犬の66〜70%は、反対側の足の前十字靭帯も断裂すると言われていますので、特に日頃から注意が必要です。

 

 

まとめ


犬の前十字靭帯断裂は非常によく遭遇する整形疾患ですが、早期に適切な治療介入を行えば今まで通りの生活に戻れる疾患でもあります。

 

しかし、前十字靭帯断裂は放置すると膝の半月板の損傷や、重度の関節炎を引き起こす場合がありますので、犬が激しい運動をしていないか、歩き方に異常がないかなどを注意深く観察し、少しでも気になることがあればすぐに獣医師に相談しましょう。

 

神戸三宮元町の動物病院ACS動物外科クリニック

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〈引用元〉
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/18/1/18_1_7/_pdf/-char/ja

Slocum B, Slocum TD. Tibial plateau leveling osteotomy for repair of cranial cruciate ligament rupture in the canine. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1993 Jul;23(4):777-95. doi: 10.1016/s0195-5616(93)50082-7. PMID: 8337790.

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