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動物病院+トリミング
神戸三宮元町にあるACSです。

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2024.02.29

ACS letter 2024.2 ねこちゃんのワクチン

こんにちは。獣医師の新津です。

 

前回はわんちゃんのワクチンについて書きましたので、今回はねこちゃんのワクチンについて考察したいと思います。よろしくお願いします。

 

  

*野良猫さんの平均寿命は4歳!?* 

  

これは、私が2008年に新卒で⼊社した当初、勤め先の院⻑先⽣が⾔っていたことです。

 

当時の猫ちゃんの平均寿命は13.7 歳でしたので(井上, 2022)、「野良猫さんの命は随分短いんだなあ」、と驚いたのを覚えています。

 

 ある報告には,若年〜壮年期の野良猫の死亡原因の多くは感染症と外傷である、と記載されいます(Grieco, 2021)。猫ちゃんの健康においても、ワクチンによる感染症予防が⼤切であることが伺い知れますね。

  

 

 *ねこちゃんのコアワクチン*

 

 コアワクチン、ノン・コアワクチンの概念については前編でお話しました。

 

猫ちゃんのコアワクチンには、猫汎 ⽩⾎球減少症(猫パルボウィルス感染症)、猫ヘルペスウィルス感染症、および猫カリシウィルス感染症を防御するワクチンがあります。

 

  

  

 

 初年度の接種プログラムについては、わんちゃんと同様であるため、前編を参考にしてくださいね。2年⽬以 降の接種間隔は、猫ヘルペスウィルス、猫カリシウィルスの感染のリスクに応じて、決めていきます。感染のリ スクが⾼い猫ちゃんは年に1回、低い猫ちゃんは3年に1回の再接種が推奨されています(Day, 2016)。リスクが ⾼い、低いの⽬安は以下を参考にしてください。

 

 

 

 

*感染リスク*

 ・⾼い ペットホテルを定期的に利⽤している、または多頭飼育で室内と屋外を⾏き来する猫ちゃん

 ・低い 室内で単頭飼育されており、ペットホテルを利⽤しない猫ちゃん

 表1. 猫カリシウィルス、猫ヘルペスウィルス感染のリスク

 さらに、これらのワクチンがもたらす免疫は、接種後3ヶ⽉以内に最⼤となるため(Gaskell, 2007)、ホテルに預 ける直前に接種するのが最良と考えられます。なお、猫汎⾎球減少症に対するワクチンの防御効果は、3 年以上 の⻑い期間維持されると考えられています。ただ、本邦では上記3つのワクチンが1本の製剤として販売されて いるため、接種間隔は前述の暴露リスクに基づいて決めていくことになります。

 

 

 

 ここで、猫ちゃんのコアワクチンに関して知っておいてほしい事があります。

 

それは、猫ヘルペスウィルス感 染症、猫カリシウィルス感染症に対するワクチンの防御効果は、完全ではないということです(Day, 2016)。つま り、ワクチン接種を受けた猫ちゃんであっても、感染や発症が⾒られる可能性はある、ということになります。 とはいえ、世界獣医師会のワクチンガイドライングループは、そのような不完全性を認めつつも、これらをコア ワクチンに分類しています。そのため、接種するメリットは⼗分にあると考えるべきでしょう。

 

  

 

 

*ねこちゃんのノン・コアワクチン*

 

 猫ちゃんのノン・コアワクチンには、猫⽩⾎病ウィルス感染症、クラミジア感染症を防御するワクチンなどが あります。ノン・コアワクチンのため、個々のライフスタイルや暴露リスク、地域における感染率によって接種 するかどうかを決めていくことになります。

 

猫⽩⾎病ウィルス感染症を例にとってみると、①猫⽩⾎病ウィルス を保有した猫ちゃんと同居している猫ちゃん、②外に出る習慣がある猫ちゃん、③外に出る習慣がある猫ちゃんと同居している猫ちゃんが対象となります。

  

また、猫⽩⾎病ウィルスを保有している猫ちゃんに猫⽩⾎病ウィルスのワクチンを接種することはしません。その場合、猫⽩⾎病ウィルスに関連した症状が発現してしまう事があるからです(Lutz, 2009)。また、不必要な接種にもなってしまいます。感染しているかどうかは、⾎液検査で知ることができます。

 

 初年度の接種プログラムは、8 週齢以降に開始して 2 ~ 4 週間隔で 2 回接種するのが効果的であると考えられています。それ以降は、猫⽩⾎病ウィルスでは 2~3 年以上の間隔を空けて、クラミジアに関しては年1回の追加接種が推奨されています(Day, 2016)。

 

 

 

*消えた猫エイズワクチン*

 

 世界獣医師会のワクチンガイドライングループは、猫免疫不全ウィルス感染症(いわゆる「猫エイズ」)のワクチンを「ノン・コアワクチン」に分類しています。ところが、2021 年、国内で唯⼀の猫エイズワクチンを販売するゾエティス・ジャパン(株)は、猫エイズワクチンの製造中⽌を発表しました。それにより、2023 年冬季に製造されるロットが最後となり、2024 年夏季には完全に販売終了となる⾒込みです。

 

 2008 年に猫エイズワクチンが発売された当初は、「⼈でも未だ開発に⾄っていないエイズワクチンが、猫で開発された!」「外を出歩く猫ちゃんもこれで安⼼して出⼊りさせられる!」などと、かなりセンセーショナルな 話題となったのを記憶しています。⼀⽅、接種対象となるのは、外に出歩く猫ちゃん、猫エイズウィルス陽性の 猫ちゃんと同居している猫ちゃんなど、特殊なケースに限られること、ワクチン接種プログラムの複雑さなどの 問題があり、思ったより普及しなかったようでした。そのような事が製造中⽌の理由になったと推測されます。

 

  

 

 

*ねこちゃん特有の悩み事〜注射接種部位⾁腫〜*

 

 ワクチンを接種する以上、ある⼀定の確率で有害事象が起こることは、わんちゃん編でもお話しました。

 

 2002 年から 2005 年にかけて⽶国で実施された約 50 万頭を対象とした⼤規模調査では、有害事象の発⽣率は接種後3⽇以内で 0.48%、30 ⽇以内で 0.52%でした(Moore, 2007)。猫ちゃんで認められる最も⼀般的な有害事象は無気⼒、⾷欲不振、発熱があり、接種後3⽇以内に現れます。あるいは、接種部位の炎症が認められることもあります(Hartmann, 2003)。

 

上述の副反応はわんちゃんでもよく認められるのですが、猫ちゃん特有の有害事象 として、「注射接種部位⾁腫」についてお話ししておかなければなりません。

 

 注射接種部位⾁腫は、接種部位に発⽣する⾮常に浸潤性が強い悪性腫瘍です。発⽣率は報告によって幅があり ますが、少ない報告では 1 万頭あたり 0.3 頭(0.003%)、多い報告では 1 万頭あたり 16 頭(0.16%)と記載されています(Hartmann, 2003)。腫瘍は偽被膜をタコの⾜のように伸ばして筋⾁や⾻に広がっていくため、外科⼿術で 取りきれない場合もあります。そのため、接種部位は肩甲間ではなく、後肢や尻尾など、外科⼿術となった場合に完全切除がしやすい部位にうつように⼯夫しています。さらに、腫瘍の発⽣リスクはワクチンの量、同時接種したワクチンの数によっても上昇するため、不必要な接種は控える、適切な種類のワクチンを選んで接種することが⼤事だと思います。

 

  

 

 

 

 

* よくあるパターン①*

 

「うちの猫ちゃんは外に出ないから打たなくていいですよね?」

 ⽇頃よくご質問いただくのですが、結論から⾔うと、答えは「N O」です。

 猫パルボウィルス感染症を例にとって考えてみましょう。猫パルボウィルスは、宿主(病原体を持っている動物 のこと)の糞便から他の感受性宿主へと⼝腔を介して伝播します(糞⼝経路)。ところが、この感染経路は猫ちゃ んが感染動物の糞便を直接⼝にすることよりも、⼈の⾐服や靴が媒介物となって感染することの⽅が多いのです (Truyen, 2009)。これは、室内飼いの猫ちゃんであっても、感染症にかかるリスクがあることを意味しています。 したがって、外に出ない猫ちゃんもワクチン接種をしたほうが安⼼でしょう。

 

 

*よくあるパターン②*

 

 「新しく迎え⼊れる猫ちゃんが猫⽩⾎病ウィルス、あるいは猫エイズウィルス陽性だった。

先住猫への影響は?」

猫⽩⾎病ウィルスは、猫ちゃん同⼠が親しく接触することによって感染する事があります。そのため、先住猫 ちゃんには猫⽩⾎病ウィルスのワクチンを接種しておいた⽅が良いでしょう。それでも、ワクチンの防御効果は 100%ではないことに注意しましょう。

 

猫エイズウィルス陽性だった場合はどうでしょうか。今後ワクチンは利⽤できなくなります。猫エイズは、咬 傷によって感染するため(Hosie, 2009)、猫ちゃん同⼠のケンカが起こらないよう、以下のような対策をとってみ てください。

 

  

 ・猫ちゃん同⼠が慣れるまではケージに⼊れて直接的な接触は避ける。

 ・雄猫は去勢をしておく(未去勢の場合、発情期にケンカをしやすくなるため)。

 

 

 

* まとめ*

 

・野良猫さんの寿命はかなり短命なことが多く、感染症は主な死亡原因の⼀つと考えられています。

そのため、 ワクチン接種による感染症予防は猫ちゃんの健康にとって⾮常に重要です。

・感染症は、猫同⼠の直接的な接触だけでなく、⼈の⾐服などを媒介して起こる事があります。

そのため、室内 飼育の猫ちゃんであってもワクチン接種は必要です。

・ワクチンの種類や接種間隔は、猫ちゃんのライフスタイルや感染リスクに応じて決めていきます。

注射接種部 位⾁腫を含む有害反応の発⽣を最⼩限にするために、不必要な接種は避け、適切な種類のワクチンを適切な間隔で接種しましょう。

参考⽂献

 ・Day MJ et al. WSAVA Guidelines for the vaccination of dogs and cats. J Small Anim Pract. 57: E1-E45 (2016) PMID: 26780857

 ・Gaskell R et al. Feline herpesvirus. Vet Res. 38: 337-54 (2007) PMID:17296160

 Grieco V et al. Causes of Death in Stray Cat Colonies of Milan: A Five-Year Report. Animals (Basel). 11: 3308 (2021) PMID:34828042

・Hartmann K et al. Feline Injection-Site Sarcoma and Other Adverse Reactions to Vaccination in Cats. Viruses. 15: 1708 (2023) PMID:37632050

 ・Hosie MJ et al. Feline immunodeficiency. ABCD guidelines on prevention and management. J Fe. 11: 575-84 (2009) PMID:19481037

 ・Lutz H et al. Feline leukaemia. ABCD guidelines on prevention and management. J Feline Med Surg. 11: 565- 74 (2009) PMID: 19481036

 ・Moore GE et al. Adverse events after vaccine administration in cats: 2,560 cases (2002-2005). J Am Vet Med Assoc. 231: 94-100 (2007) PMID:17605670

 ・Truyen U et al. Feline panleukopenia. ABCD guidelines on prevention and management. J Fe. 11: 538- 46(2009) PMID:19481033  ・井上 舞 ら. 動物病院カルテデータをもとにした⽇本の⽝と猫の寿命と死亡原因分析. ⽇獣会誌 75: 128- 133 (2022)

 

 

 

 

 

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